事務所のデスクで受話器を置いたあと、手元のメモを見つめながら深呼吸して気持ちを整えようとしている介護事業所の事務担当者

通報・苦情がきっかけの運営指導、事務が落ち着いて備えること

夕方、市役所の担当者さんから電話が入る。「事業所について、ご意見(情報提供)が寄せられています。確認のためにお伺いしたいのですが」。受話器を置いたあと、しばらく手が止まってしまった——そんな経験、ありませんか。

「誰が言ったんだろう」「何が問題だったんだろう」「うちは処分されるのかな」。考えが一気に押し寄せて、胸がざわざわしますよね。毎日まじめに書類を整えてきた人ほど、ショックは大きいものです。

でも、まず知っておいてほしいのは、通報や苦情がきっかけだからといって、すぐに処分が決まっているわけではないということです。行政は、寄せられた声が事実かどうかを確かめに来ます。事業所側にできることは、事実を落ち着いて確かめ、記録で応えること。この記事では、その順番を事務の立場から一緒に整理します。

結論:苦情や通報がきっかけの運営指導では、①通報者を探さない ②連絡の内容(日時・担当部署・確認したいこと・求められる書類)を正確に控える ③管理者と「窓口」を一本化する ④対象の期間・利用者・場面について、記録と事実を先に自分たちで確かめる ⑤当日は事実をそのまま説明し、足りなかった点は改善として記録に残す、の5つで落ち着いて迎えられます。今日はまず、連絡の内容をメモに整理して、管理者と共有するところまでできれば十分です。

何が起きているか:寄せられた声を「確かめる」ための指導

ご利用者さんやご家族、職員、地域の方などから、市町村や都道府県、国保連の苦情窓口に声が届くことがあります。行政はその声をそのまま信じて処分するのではなく、事実を確かめるために、運営指導や、内容によっては監査という形で事業所に話を聞きに来ます。

運営指導と監査のちがいは、運営指導と監査の違い、あわてず整理しておく にまとめていますが、ざっくり言うと次のとおりです。

また、通常の運営指導は事前に日程の通知がありますが、虐待が疑われる場合など、前もって知らせると普段の様子を確かめにくいと判断されたときは、事前の通知なしで行われることがあります。突然の訪問だったとしても、それは「普段の姿を見たい」という理由であって、事業所を責めるための手順ではありません。

どの形で、どこまで確かめるかは、指定権者(都道府県や市町村)が判断します。細かな進め方は自治体ごとに違うので、届いた連絡や通知の内容を優先してください。

具体例:連絡が来たあと、迷いやすい場面

現場でよくあるのは、こんな場面です。

どの場面でも、つい「誰が」「なぜ」に気持ちが向きがちです。でも、事務が先に手をつけたいのは「いつ・どの利用者さん・どの場面のことか」と「そのときの記録はどうなっているか」のほうです。

落ち着いて備える5つの順番

横に3つの場面が並び、左は電話の内容をメモに書き留める事務担当者、中央はファイルを開いて記録を確かめる事務担当者、右は管理者と並んで改善の記録を整える事務担当者が描かれ、それぞれの下にラベルがある図
「控える→確かめる→整える」の順に進めると、何から手をつければいいかが見えてきます

一度に全部やらなくて大丈夫です。連絡を受けた日から当日までに、ひとつずつ進めていきましょう。

① 通報者を探さない

いちばん最初に、そして職員みんなで共有しておきたいことです。誰が声を上げたのかを探したり、思い当たる人に問いただしたりはしません。

行政が通報者を事業所に明かすことは基本的にありませんし、高齢者虐待防止法では、施設などで働く人が通報したことを理由に不利益な扱いを受けないことも定められています。なにより、声を上げた人を探す空気は、ご利用者さんや職員の安心を損ないます。

管理者さんから職員に「確認の連絡があったので、事実をていねいに確かめます。誰が言ったかは探しません」とひと言伝えてもらうと、事業所の中が落ち着きます。

② 連絡の内容を、そのまま控える

電話や通知で伝えられたことを、受けたその場でメモに残します。

わからないことは、その場で「確認させてください」と聞き返して大丈夫です。電話で答えきれない質問には、「確認してから折り返します」と伝えれば十分です。

③ 窓口をひとつにする

行政とのやりとりは、管理者さんを中心に、窓口になる人を1人(多くても2人)に決めます。事務担当者が窓口を担う場合でも、何をどう答えたかは必ず管理者さんと共有します。

窓口がばらばらだと、同じ質問に別々の答えをしてしまうことがあります。答えを一本にそろえるだけで、当日の説明がぐっとしやすくなります。

④ 記録と事実を、先に自分たちで確かめる

対象の期間・利用者さん・場面がわかったら、そのときの記録を開いてみます。

ここで大切なのは、記録をあとから書き足したり、書き直したりしないことです。空白や不足に気づいたら、それはそのまま「足りていなかった点」として受け止め、なぜそうなったかの経緯をメモに整理しておきます。正直に経緯を説明できることのほうが、ずっと信頼につながります。

苦情を受けたときの記録の残し方は、苦情を受けたときの初期対応と、記録の残し方を一緒に が参考になります。

⑤ 当日は事実を説明し、改善を記録に残す

当日のヒアリングでは、確かめた事実をそのまま伝えます。わからないことは「わかりません、確認します」で大丈夫です。推測で答えたり、取り繕ったりしないことが、いちばんの備えです。

指導のあとに改善を求められたら、何をいつまでにどう直すかを決めて、改善報告や事業所内の記録に残します。改善報告書の書き方は 実地指導後の改善報告書の書き方|事務が整える型と手順 にまとめています。

影響:落ち着いて応えれば、事業所が整うきっかけになる

苦情や通報がきっかけの指導は、どうしても「責められている」と感じやすいものです。でも、行政が確かめたいのは事実と、その後の対応です。事実をていねいに確かめ、足りなかった点を正直に認めて改善していく姿勢は、指導の場でもきちんと伝わります。

それに、外から届いた声は、普段の中にいると気づきにくいことを教えてくれることがあります。送迎の連絡のしかた、言葉づかい、記録の残し方。今回をきっかけに整えたことは、これから先のご利用者さんの安心と、職員自身を守る仕組みになっていきます。

運営基準でも、事業所には苦情を受け付ける窓口を設けること、内容を記録すること、市町村などの調査に協力し、指導や助言に沿って改善することが求められています。今回の対応は、その仕組みが動いている証でもあります。

明日やること

  1. 連絡の内容(日時・担当部署・確認したいこと・求められた書類)をメモに整理する
  2. 管理者さんとメモを共有し、行政とのやりとりの窓口を決める
  3. 職員に「事実を確かめます。誰が言ったかは探しません」と伝えてもらう
  4. 対象の期間・利用者さん・場面の記録を開き、そろっているものと足りないものを書き出す
  5. 足りなかった点は書き足さず、経緯をメモに整理する

時間がとれないときは、1と2だけでも十分です。連絡の内容がはっきりしていて、窓口が決まっていれば、あとの準備は落ち着いて進められます。

確認チェックリスト(通報・苦情がきっかけの指導・最小ライン)

よければ、こちらも

通報や苦情がきっかけと聞くと、毎日の頑張りまで否定されたような気持ちになるかもしれません。でも、確かめられるのは事実であって、あなたの誠実さではありません。今日は連絡の内容をメモにまとめて、管理者さんに渡すだけで十分。その一歩で、もう落ち着いた対応は始まっています。

整理を終えたファイルを前に、管理者と事務担当者が並んで座り、穏やかにうなずき合っている明るい事務室の様子
事実を確かめて、記録で応える。それで十分です

ひとつずつ確かめて、正直に応える。その積み重ねが、ご利用者さんにも職員にも安心できる事業所をつくっていきます。制度と現場をつなぐあなたの仕事が、今日もちゃんと誰かを支えています。